司法修習生のひとりごと – 刑事裁判の傍聴

東京修習では、在宅事件は必ず配点されますが、身柄事件は必ずしも配点されるとは限りません。これは「諸般の事情」を考慮して決定されるらしいのですが(指導検事談)、配点されなかった場合、暇になります。とても暇です。本当に暇です。そんなとき、修習生が行うのは、まあ、いろいろあるのですが、そのひとつとして裁判傍聴が挙げられます。刑事裁判を傍聴し、法廷における検察官の役割を見学するわけです。

刑事裁判は、被告人(刑事訴訟の対象者)の犯した犯罪事実を明らかにし、犯罪が成立するならば刑罰を科すものです。これは、誰でも傍聴することができます。

今回は、初めて裁判傍聴に行く場合、どのような事件を選べば傍聴を楽しめるか、裁判のどのような点を見聞きすればよいか、書いていきたいと思います。なお、いつも傍聴に行っている東京地方裁判所を想定して書きますが、基本的には、他の裁判所でも変わらないはずです。

まず、裁判所に入ったところに裁判の一覧が書かれたファイルがあるので、それを見ましょう。それぞれの裁判の開廷時刻と事件名が書かれています。どの事件も内容を見てみなければ面白いものかどうか分からないのですが、詐欺事件や殺人事件などは、面白そうな(重大事件にそのような表現を使うのは不謹慎ですが)匂いがします。あと、横の方に「審理」「新件」などと書かれているはずですが、断然「新件」がオススメです。初回期日でしか事件の概要が説明されないからです。二回目以降の期日はいきなり証拠調べが行われたり、判決が言い渡されたりするので、何も分からないままに終わってしまうと思います。

開廷時刻付近になると、検察官が入ってきます。書類を豪華な風呂敷に包んでいるので、すぐに分かります。検察官は向かって右側に座ります。向かって左側には被告人と弁護人が座ります。在宅起訴された被告人は、一般の傍聴人と同じように入口から入り、傍聴席と証言台の間にある柵の扉を開けて被告人席に座ります。勾留された身柄事件の場合は、護送の警備員が被告人に腰縄を巻いて連れてきます。初めて見ると、衝撃的な場面かもしれません。そして、全員が揃うと、裁判官が入ってきます。ここで傍聴人も含めた全員が起立して一礼します。法令で定められているわけではないですが、礼儀として行われているのだと思います。

最初に行われる手続きは、人定質問です。法廷にいる被告人が起訴状に書かれた被告人と同一人物であるかを確認するため、氏名、本籍、住所、職業が聞かれます。次に、検察官が起訴状を朗読します。ここで聞いておくべきは、検察官が立証しようとする被告人の犯罪行為を示す「公訴事実」です。これが分からないと、裁判で何が審理されるのか分からないことになってしまいます。この読み上げが終わると、裁判長は被告人に黙秘権を告知します。話したくないことは話さなくてもよいという、憲法で保障された被告人の権利です。これを告知した上で、検察官が読み上げた公訴事実を認めるかどうか、被告人に聞きます。一般に、罪状認否といいます。ここで「間違いありません」などと公訴事実を認めるのが自白事件で、メインの争点は情状関係になります。「そんなことをした覚えはありません」などと認めない場合は否認事件となり、犯罪の成否について検察官と被告人・弁護人の間で激しく争われることになります。

ここまでが冒頭手続と呼ばれています。次は証拠調べで、検察官の冒頭陳述から始まります。ここでは、検察官が裁判において立証しようとする内容が陳述されます。ここも重要なのですが、あっという間に終わってしまうのが通常です。検察官が公訴事実をどのように立証しようとしているのかが分かれば十分でしょう。引き続いて、証拠調べが行われていきます。書面は朗読され、証拠物は展示され、証人は尋問されます。検察官が何を立証しようとしているのか、証拠構造はどうなっているのかを考えながら聞きましょう。もちろん、被告人・弁護人から証拠が提出されることもあります。

証拠調べが終わると、検察官による論告求刑です。証拠調べの結果を受けて、犯罪事実の存否についての最終的な結論を述べます。これに対して、被告人・弁護人側の主張は最終弁論と呼ばれます。これらは、刑事裁判の当事者による総括みたいなものです。これがおわると、裁判官によって判決が言い渡されます。

簡単な事件では、初日に判決まで言い渡されることがあります。刑事裁判の最初から最後まで見ることができるので、かなり楽しめるでしょう。

裁判員裁判を選ぶという手もあります。一部の重大事件についてしか行われないので巡り会える機会は少ないかもしれませんが、冒頭陳述などがより分かりやすいものになっているはずです。