ルームドナーから考えたこと

NHKのニュースを見ていたら、roomdonor.jpというサイトが紹介されていました。3月11日の東日本大震災で住むところを失った人たちに対して、貸し出すことのできる家や部屋を登録することができるというサイトです。ポイントは、営利目的の賃貸物件をあっせんするサイトではない、というところです。登録できるのは非営利目的の不動産に限られ(利用規約に明記されている)、被災者は無償で家や部屋を借りることができます(光熱費等は自費負担とする場合もある)。

今回の大震災は、市民の生活基盤を根こそぎ破壊してしまう規模のものでした。また、原子力発電所の事故により、広範囲において人が住むことのできない地域が生じてしまいました。そのため、住居を確保しなければならない被災者の方々が数多く現れることになったのです。このようなニーズに対して、営利目的の企業は役立ちません。被災者は資産をも失っていることが多いので、住居に対する対価を支払う余裕がないのです。そのため、このroomdonor.jpは、被災者のニーズを満たすことのできる、有益なプロジェクトであると思います。うまく、費用をかけずに住居を確保したいという被災者のニーズと、手持ちの不動産を使って被災者を支援したいという人々のニーズをマッチングさせているといえるでしょう。

しかし、わたしは、このプロジェクトに引っかかるところがありました。

「被災者には無償で提供します」という姿勢、果たして本当に手放しで褒めることのできることなのでしょうか。一見すると、お金にこだわらず、被災者を支援したいという純粋な心で動いていることから、実に素晴らしい、できる限り広めるべきだ、と感じます。しかし、住むところがなくて困っている人々は、被災者以外にもたくさんいます。ネットカフェを渡り歩いている人々、公園に寝泊まりしている人々、最近の景気低迷による派遣切りなどで、住むところを失っている人々は増え続けているようです。そのような人々と、被災者の違いは一体何なのでしょうか。

これまで人並みの生活をしていたところ、急に地震などによって住むところを失ってしまい、路頭に迷ってしまった。そのような人々に対しては、かわいそうだ、なんとかしてあげたい、と思うのが普通でしょう。だから、住むところを提供したい、支援してあげたい、と思うのも納得できます。一方で、たとえば派遣切りにあって手持ちの資金がなくなってしまい、アパートなどを出なければならなくなってしまった人々に対しては、そのような感情は起こらないのでしょうか。そのような道を選んだのは自己責任であって、震災のような自然現象が原因でいまの状況に追い込まれたのではないから、住むところを持っていても提供する気は起きず、支援してあげる必要もない、自分で努力してくれ、ということになるのでしょうか。それはどこか間違っているように思います。世界経済の状況が変わるのは、誰にも予想できることではありませんから(関東大震災がいずれ起こるというようなレベルでの予想はできるかもしれませんが)、自然災害と似通ったところがあります。また、稼ぎたいと考えても、自分だけがそう思っていても何ができるというわけではありません。人によって事情が異なるので、一般的な結論を出すことはできませんが、住むところを失い、たとえばネットカフェの住所で住民登録をしているような人についても、住む場所を同じように無償で提供するようなネットワークがあってしかるべきではないでしょうか。このような問題は、以前からありました。しかし、先に作られたのは、被災者向けの検索サイトです。

なにも、roomdonor.jpの存在がおかしいと言っているわけではありません。存在価値が高いサイトだと思いますし、その活動は続けていくべきだと思います。しかし、どうして、被災者のことになると俄然やる気が出てくるのか、いろいろなサービスや支援が出てくるのか、そこが引っかかるのです。

他人に何かを伝えるには、プレゼンテーションをしなければなりません。その手法がうまいものであればあるほど、伝えたい内容は正確に伝わっていきます。一方で、その手法がうまくないと、伝えたい内容は伝わっていきません。それがどれだけ深刻なものであっても、受け手はそのように受け取りません。東日本大震災は、すべての国民に対して「これは非常事態です! なんとかしてください!」というメッセージが伝わりやすいものだったのでしょう。roomdonor.jpを作った方は、大量の帰宅困難者を目の当たりにして、なんとかしなければならないと思ったそうです。これまで見たこともない、非日常的な光景は、最高によく伝わるプレゼンテーションであったということなのでしょうね。一方で、派遣切り等の問題で住居を失った人々については、自己責任という印象で片付けられてしまい、その深刻さがうまく伝わらなかったのかもしれません。

とくに、何をしなければならないと主張したいわけではありません。ただ、このような国が、日本なのだろうなあ、と思っただけのことです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <pre lang="" line="" escaped="" highlight="">